藻類で土砂流出を防ぐBSC工法

NEEDS

近年、豪雨災害によって山間部の斜面が崩壊し、下流側への濁水影響が長期化するといった問題がしばしば起こっています。日本工営では、こうした場所の侵食や土砂流出の防止、生態系の保全のために土壌藻類を活用して土壌表面の侵食を防止し、早期に自然植生の回復させる技術、BSC(バイオロジカル・ソイル・クラスト/Biological Soil Crust)工法を開発しました。
BSCとは、土壌表面に、糸状菌類、土壌藻類、地衣類及びコケ等が地表面の土粒子を絡めて形成するシート状のものです。BSCで覆われることで、地表面が安定し、水分条件も良くなる等、環境が改善し、崩壊後の斜面に草などが生え、追って木が生えてくることとなります。いわゆる自然の植生遷移を手助けする自然にやさしい工法です。BSC工法は、通常数年かかる初期の植生遷移を2週間から1か月という短期間で形成させる技術として開発しました。日本工営と国立研究開発法人土木研究所が共同で2009年に特許を取得しています。

開発のきっかけは、日本工営が沖縄で実施していた赤土対策の研究中に、土壌藻類が発達しているパイン畑の土砂流出量が少ないことを偶然発見したことでした。その後、BSCを形成した畑では流出土砂量が1/10~1/20程度に低減されることを実証するなど、研究を重ねてきました。その後、株式会社日健総本社が土壌藻類を水中培養で土木資材化することに成功。日本で初めて土壌藻類を活用した土木資材として社会実装を実現しています。

SOLUTION

  • 簡単で法面整形なしでも施工可能
    一般的な種子吹付工における緑化用種子を、土壌藻類資材(BSC-1)に変えるだけで、施工に伴う改変も少ない技術です。従来のシート・マット型や基材吹付型の自然植生侵入工等と違って、法面整形工なしでも施工可能です。
  • 周辺環境に応じた植生遷移を促進
    BSCにより侵食が防止され、周辺から飛来する種子等が活着しやすくなり、植生遷移がより早くスタートします。周辺の植生や土壌環境、気候条件に応じた自然な植生形成を促進します。
  • 在来種等への配慮
    国内だけでなく世界中に存在しBSCを形成している土壌藻類を利用しており、どこで使用しても在来種となります。また雌雄が無く無性生殖で増えるため、雑種形成や遺伝子攪乱等の心配もないことから、環境への配慮が特に必要な国立公園でも施工されています。
  • リルからの侵食の拡大を防止
    従来の被覆対策は表面流が流れる場所(リル)から剥離・劣化しますが、本工法の場合は、このような場所にBSCがよく発達し、リル侵食の拡大を防止して、斜面の安定を図ります。
  • 気候変動に伴う豪雨災害への対応
    現在は土木資材として開発した土壌藻類資材(BSC-1)を豪雨や地震災害により発生した斜面崩壊への適用を目的として航空実播(ヘリによる空中散布)による活用もスタートしています。

国内外で適用が進み、試験施工も含めて、ネパール、沖縄のやんばる国立公園内や三陸復興国立公園、各地の自衛隊演習場内等、様々な地域で実績が広がっています。
また、浸食防止用植生マット(多機能フィルター)と土壌藻類資材(BSC-1)を組み合わせ双方の長所を生かした、新たな自然侵入促進型侵食防止マット BSCマットを開発し、多機能フィルター株式会社より販売を開始しています。BSCマットは、成形された法面に密着させて施行することで、施工直後から侵食防止効果を発揮することが可能になりました。BSC吹付工法とBSCマット工法の二つの工法を展開することで、各現場条件に応じて、それぞれのメリット・デメリットを考慮して利用することができます。

造成法面への散布の様子
ヘリによるBSC-1の空中散布の様子
工事による荒れ地での施工例 施工前
施工後(約4カ月後、自生種が繁茂)
一般的な侵食防止材の場合、リルから剥離が進む
BSCはリルに良く発達し、侵食の拡大(ガリ化)を防止
BSCマット(製品イメージ)
施工後の植生の様子

POINT

2022年には、インフラメンテナンスの効果的・効率的な実施を実現した研究・技術開発の優れた成果を収めた取組の関係者を表彰するインフラメンテナンス大賞で最高賞である防衛大臣賞を受賞しました。さらに2024年には、国立研究開発法人国立環境研究所と株式会社日刊工業新聞社が共催し、環境省が後援する第51回「環境賞」において、最高賞である「環境大臣賞」を受賞しました。技術開発の着想および独創性、その実績について、多くの審査員の方々から高い評価を頂きました。また、使用されている土壌藻類は世界の広い範囲で分布が認められるものであって、各地の地域生態系に配慮しつつ世界的に展開することが期待できると講評頂きました。
現在、国土交通省の新技術情報提供システムNETISにて「活用促進技術」並びに「震災復旧・復興支援技術」に選定されています。また、著名な金融機関が参加する次世代金融アライアンスFANPSの「SOLUTION CATALOGUE TOWARD NATURE POSITIVE」に掲載されるなど認知度が高まっています。
さらに、日本工営、東京農業大学、日健総本社の3者で、2022年2月に包括連携協定を締結し、日本工営が開発した土壌表面の侵食防止に有効なBSC工法を基礎として、地球温暖化に伴う様々な災害、環境問題に関する基礎研究、新技術開発を進めています。

第51回環境賞 贈賞式(日刊工業新聞社撮影)
インフラメンテナンス大賞(防衛省)贈賞式
包括連携協定
  1. ホーム
  2. プロジェクト紹介
  3. 「タイの駐車場の新しい形」、ビッグデータでスマートシティにおける駐車場を推進
ページトップへ戻る