「空飛ぶクルマ」を実現するために、まずは制度や基準をつくる 夢の未来、次世代エアモビリティ実現への挑戦

INTRODUCTION

遠い未来の出来事と思われていた「空飛ぶクルマ」の実現が、間近に迫っています。海外でも活発に実証実験などが行われる中、日本でも官民による取り組みが進展。日本工営も、経済産業省による「空の移動革命に向けた官民協議会」を筆頭に、大阪府が主導する「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」、一般社団法人航空イノベーション推進協議会(AIDA)、ドクターヘリなどで、独自の知見から提案と提言を行ってきました。ドローンの自動航行解禁や大阪万博をマイルストーンとした、エアモビリティの航行開始が目前に迫っています。

PROFILE

  • 日本工営株式会社 コンサルティング事業統括本部 交通運輸事業本部 港湾空港事業部航空部 次長

    井上 靖志(いのうえ やすし)

    大手通信会社にて約12年間次期航空交通管理システムの企画、設計に従事。ICAOコンセプト・国際基準策定支援:市場調査及び新製品・サービス・ビジネスの戦略策定のリードを経験する。現職では約8年間、空港・空域・航空保安・管制システムの調査・設計の経験と技術:国内外政府・民間プロジェクトにおけるマネジメント・統括を経験。産学官における広いネットワーク、良好な連携関係を育み、次世代に向けたドローン、エアモビリティの新事業創出をリード。空の移動革命に向けた官民協議会メンバー、大阪ラウンドテーブルメンバー。

  • 日本工営株式会社 コンサルティング事業統括本部 交通運輸事業本部 港湾空港事業部 空港部

    山極 政行(やまぎわ まさゆき)

    国内空港設計、調査業務に約11年間従事。東京国際空港はじめ、福岡空港、那覇空港等地方空港において担当技術者として整備計画、施設・増設事業実施設計、調査業務等、空港インフラ関係プロジェクトを経験。空の移動革命に向けた官民協議会メンバー、大阪ラウンドテーブルメンバー。

  • 日本工営株式会社 コンサルティング事業統括本部 交通運輸事業本部 港湾空港事業部 空港部 課長

    藤生 孝典(ふじう たかすけ)

    国内空港設計、調査業務に約13年従事。東京国際空港、新千歳空港等の整備事業に関する調査、設計業務に加え、設計法や要領改訂や空港制限区域内車両の自動化に関する業務等の管理技術者、担当技術者として幅広い業務を経験。

  • 日本工営株式会社 コンサルティング事業統括本部
    (Nippon Koei Bangladesh出向中)

    田中 真治(たなか しんじ)

    国内橋梁設計から国内環境部に移り環境調査、環境影響評価業務に従事。2016年より海外環境技術部に異動し海外業務を担当。2022年7月よりNippon Koei Bangladeshに出向中。空の移動革命に向けた官民協議会メンバー。

  • 日本工営株式会社 コンサルティング事業統括本部 基盤技術事業本部 地球環境事業部 環境部

    田中 寿枝(たなか よしえ)

    環境影響評価業務に約13年間従事。東京都条例アセスを主に対応する他、東日本大震災に伴う除染事業に係る調査業務、東京2020オリパラ大会アセス、東京国際空港再拡張事業に係る環境監視調査業務等の担当技術者として、幅広い業務を経験。空の移動革命に向けた官民協議会メンバー。

  • 部署名および役職・インタビュー内容は取材当時のものです

STORY

社会から求められることと、日本工営だから見える未来の双方から空飛ぶクルマの社会をつくり上げていく

―ただ機体が完成すれば、空飛ぶクルマが運行できる社会が訪れるわけではありません。空港土木、管制、システム、電力、環境、交通計画・都市計画など、ドローンやエアモビリティの社会実装には、数えきれないほどの技術が必要です。日本工営では、空港のエンジニアリングだけではなく、これら社会インフラ構築に関わるサービスを長年に渡り提供してきました。数年後に到来する空飛ぶクルマの実現に向けて、官民協働で取り組むエアモビリティ・プロジェクトのメンバーに、現在の進捗状況を聞きました。

井上

今、私たちが目標にしているのは2025年の大阪万博です。会場周辺の観光周遊飛行だけではなく、会場と関西国際空港や会場と大阪市内を結ぶ移動サービスとして「空飛ぶクルマ」を社会実装します。現在は、専門メーカーさんが機体の認証を受けられるように動いている段階で、日本工営は運航のための制度や基準、離発着場の要件などを固めていく一員として官民協議会で提案や提言を行なっています。

山極

空飛ぶクルマは、ドローン技術を活用した機体の実現が現実路線になっています。垂直に飛ぶのか、やや斜めに飛ぶのかといった議論は現在進行中ではありますが、これらを踏まえて空飛ぶクルマに必要な離発着場とは何かを、空港部が担当して提案しています。これまでの空港やヘリポートのエンジニアリングで得てきた経験を活かして、新時代の到来に貢献していきます。

田中(真)

大規模な事業を行う際には、工事の期間や施設稼働中の影響を評価して対策を取る環境アセスメントを行う必要があります。環境アセスメントは、ダム、高速道路、空港などのように事業別に定められているものですから、まだ空飛ぶクルマのためのものは存在していません。環境部では、豊富な環境アセスメント策定や実施の経験から、本事業においても官民協議会などで提案と提言を行っています。現在は、外枠を固めている段階です。

井上

空飛ぶクルマの領域は、海外が先行しています。でも、日本も負けてはいられません。様々な好例が海外にあるのですから、積極的に参考にしていきたい。弊社には海外事業部があるため、すでにテスト飛行やモックアップ作成まで進んでいる各国の進捗状況については、かなり情報を獲得しています。そもそも、2019年にシンガポールで調査をした時に、各国、各都市の関係者が高い関心を持って熱く議論をしていたことが、私たちの参入の理由。近い未来、日本でも大きな需要が出てくると考えています。

また、弊社の別部署が担当しているDXやデジタルツインも、近い将来に連動していくと考えています。仮想空間内で試行錯誤できるのは、これまでの開発の手法から大きく変化したところ。小さなテストを何度も繰り返して結果を集めていく従来型ではなく、いきなり本番の環境と仕様を用いて仮想空間内でテストする時代は、きっと到来するでしょう。そうなると、制度や基準の作り方すら変わる可能性が高いため、先駆けとなれるように今から想定して空飛ぶクルマの事業に取り組んでいます。

人類が初めて経験する事業に携わる責任と喜びを胸に「空飛ぶクルマ」の実現を目指す

空飛ぶクルマが大阪の街を飛ぶイメージ
画像出典:経済産業省ウェブサイト

―空飛ぶクルマの実現に必要不可欠な制度や基準づくり。空港やヘリポートのエンジニアリングに加え、空港土木、管制、システム、電力、環境、交通計画・都市計画等など、日本工営には空飛ぶクルマの実現のために必要な知見を持った専門家が社内に在籍しています。協議会などの場でも、専門技術者としての視点を求められることが多いという、それぞれの技術者の「思い」と「やりがい」に迫りました。

山極

空飛ぶクルマが実現して広く普及すれば、町の風景がガラリと変わり、普段の生活も革新されると考えています。ともすると、携帯電話やインターネットの普及と同じような時代の節目になるのかもしれません。そのような事業に参画できることに、一人の社会人として大きなやりがいを感じています。

また、今、日本では産官学の様々な組織が一丸となって空飛ぶクルマの実現に取り組んでいて、参加する誰もが「できるのか?」ではなく、「実現するのだ」という強い気持ちを持って取り組んでいると感じます。その中で、これまで様々なインフラの整備実績がある日本工営は、インフラ整備のスペシャリストとして質問を受け、頼られる機会が多々あり、こういった頼られ方をすることは、一人の技術者としても、大きなやりがいを感じています。

空飛ぶクルマに関する議論の場では、離発着場の土木施設設計のみでなく、機械や通信、運輸、電気、運営、経営戦略など、様々な議題の話し合いが行われます。このような議論の場にいれることは、私自身の専門領域以外のことも学べるチャンスでもあり、今後も様々な知識・知見を学んでいこうと思っています。

田中(真)

環境アセスメントのルール作りは、空飛ぶクルマの機体や離発着場の全容が明らかになってからが本番です。そのための協議や議論は始まっていますが、まだ具体的に詰めていく段階ではありません。とはいえ、走り始めないと2025年の大阪万博に間に合わないため、着手できる領域から具体的な協議が進みつつあります。

この段階でおもしろいのは、可能性を広くあれこれ模索するところ。まだ存在していないものを、どう制度に組み込んでいくか、これまでの経験を総動員して頭の中で未来を想像する。「こんな影響が出るのではないか」ということを、パズルをはめ込んでいくように考えているところです。誰も知らない領域に考えを巡らせ、それを実現していけることは、とても楽しい作業です。

田中(寿)

環境アセスメントに関する検討は、これから進めていく段階です。まだどこにも実装した前例がないため、先行しているアメリカやヨーロッパの資料を探し出してはレビューすることを繰り返しています。環境に特化した資料が少ないので苦労はありますが、前例がないことを成し遂げた人たちと同じ過程の中にいるわけですから、大きなやりがいを感じています。

藤生

まだ世の中にはないけれども、いずれは当たり前になるものを作っていることに、やりがいを感じています。日本工営は空港やヘリポートの設計業務を長年に渡り携わってきましたが、OBのシニアエンジニアの方々がサポートしてくれるのは心強いですね。横のつながりも縦のつながりも駆使して、空飛ぶクルマの先駆者になれるように取り組んでいきます。

井上

交通弱者の対策や渋滞を減らす施策、周辺地域の価値を向上させる仕組みづくりなど、社会課題の解決の様々な観点から今後の展望を描いています。中でも最重視しているのは、日本工営でも積極的に取り組んでいるスマートシティやMaaSとの融合です。インフラ構築に留まらず、情報プラットフォームを活用し、それらを「地域」という概念の中に落とし込みたい。近年。日本の自治体でもパンフレットに空飛ぶクルマや輸送用ドローンの絵が描かれ始めました。ついに到来しようとしている本格的なエアモビリティ時代に向けて、その最先端の中心部で仕事ができることを誇りに思っています。

スマートシティやMaaSと連動させる観点を常に持ち、「都市づくり」にアプローチするのが日本工営の使命

経済産業省が描く、空飛ぶクルマが生活の一部になるイメージ
画像出典:経済産業省ウェブサイト

―空飛ぶクルマは、未来の移動や物流を担う存在です。技術や知見が必須条件になるのは確かなことですが、私たち日本工営は、「人とのつながり」や「思い」が備わってこそ、理想的な姿に近付けると考えています。夢の技術が実現した先の未来とは。それぞれの技術者は、空飛ぶクルマの実現から想像できる「未来」や「夢」をどのように考えているのでしょうか。

井上

「空を飛ぶ技術」に憧れを持ち、使ってみたいという欲求と夢を少年時代から持ち続けてきました。前職では航空管制システムの構築を経験し、現在は日本工営で空飛ぶクルマのプロジェクトを任されています。便利さや快適さの実現はもちろんですが、それ以前に、一人の人間として「空飛ぶクルマ」の仕事に携わり、実現した社会を見てみたい。正直なところ、こんなに早く実現に向けて時代が動くとは思っていなかったので、すべての経験が楽しくて。総合コンサルタントとして取る組む中で見えてきたのは、ただ飛ばすことだけが目的ではないということ。スマートシティやMssSといった都市づくりの観点を常に持ちながら、まずは2025年大阪万博での社会実装を進めていきます。

山極

空飛ぶクルマが、現在でいうところの「クルマ」や「バイク」のように一般的なものになり、若者が熱狂し、憧れて、貯金をはたいても買いたいと思うようなカッコイイ乗り物になって欲しいと思っています。例えば今では若者がクルマでドライブデートするなんてことがあると思いますが、これが空飛ぶクルマで夜景を眺めながら飛行デートする、なんてことが普通であるような、そんな近未来を想像しています。

「物流や人流を支える乗り物」としてだけでなく、街の風景や人々の文化・趣向にまで溶け込んでいくような、そんな影響のある乗り物になって欲しいですね。

自分の仕事が、このような風景や文化を作る一助になってくれれば、そう思って日々の業務に勤しんでいます。

田中(真)

今は実現性の高さからマルチコプターで検討が進められていますが、ずっと先の未来には、SF映画のようなタイプが出てきたらおもしろいですよね。でも、私は高いところがおっかないので乗れません(笑)。私たちが生きるこの時代には、まだまだ交通弱者への対策や交通渋滞対策など、自由な移動が実現していません。私は、環境アセスメントの領域から、より良い未来の実現にこれからもアプローチしていきます。

田中(寿)

私もさまざまな空飛ぶクルマが空を飛んでいると想像すると、とてもわくわくします。実現へのステップを歩んでいく度に、社会にも高揚する気持ちが広がっていくのは、技術者としてとてもうれしいことです。一方で、運航の安全性への懸念もあると思います。機体の安全性の確保は機体製造メーカーさんの担当領域ですが、私は環境アセスメントの領域から空飛ぶクルマの制度や基準等の検討を行い、空飛ぶクルマが人々に安心して受容されるよう、コンサルタントとして貢献できればと思いながら楽しく携わっています。

―日本工営の各部署が総じて取り組んでいるのは、「新技術が完成した先にどのような社会があるのか」を想定してプランニングをすること。空を自由に移動するという人類の夢の基盤には、街があり、人が住み、日々の営みが存在しています。更に快適な暮らしを目指すという人類の普遍のテーマを胸に、私たちは空飛ぶ車が実現した後の社会を見据えたプロジェクトを推進しています。

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