インフラの日常管理の事業環境に適応し、マネジメントの効率化・高度化を支援するシステムの提供 住民からの要望受付から措置完了までをクラウド上で一元管理
データの活用でマネジメントの次のステージを目指す

INTRODUCTION

道路や橋、トンネルなど、私たちの日常生活に欠かせない公共インフラ施設は今、老朽化の危機に直面しています。「国土交通白書2021」によると、2033年(令和15年)時点で存在する道路や橋の約63%、トンネルの約42%がその建設から50年以上が経過することになると見込まれています。

公共インフラ施設の老朽化に伴い、住民から自治体に対する道路の修繕要望や苦情が増加。自治体は日々、要望の受付や委託業者への連絡・調整、事務手続きなどの対応に追われ、現場の担当者の負担が増しています。同時に、修繕を受託する維持補修業者側でも、現地確認や関係者との連絡、工事、報告書類作成などの作業負担が増大しています。

日本工営はこのような課題を踏まえ、街路樹の剪定など道路環境の日常管理における関係業者との多様な契約方式への移行や、デジタル技術の進展といった、事業環境の変化に迅速に適応できる事業モデルをリアルタイムマネジメント(注1)を軸に開発。2020年10月、クラウド上で管理するインフラ維持管理支援システム『Manesus(マネサス)』の初版「住民要望、巡回~措置完了」をリリースし、その後、包括的民間委託を実施している複数地区のマネジメント一元管理まで適用範囲を拡大しています。
2022年7月現在、複数の自治体で導入され、利用者の負担軽減や業務効率化などの効果が実証されている本システムの開発担当者に、開発の経緯ややりがい、今後の展望を伺いました。

  • 注1「リアルタイムマネジメント」とは、デジタル化されたデータを基にしたシステム上で、関係者が常時・即時に情報を共有することで、迅速な判断や意思決定が行えるしくみのこと

PROFILE

  • 日本工営株式会社 道路事業部 道路事業マネジメント室 室長

    浦 元啓(うら もとひろ)

    1996年入社。1996年から2012年まで広島、鳥取、福岡、本社にて地すべり対策等の国土保全分野の案件に従事。2013年から道路インフラ関連の案件にも従事し、2018年から事業領域拡大を志向するインフラマネジメントセンター(現在の事業創生センター)にて自治体の維持管理支援に関する事業開発に着手。事業モデルの開発と充実の中で、維持管理支援システム『Manesus(マネサス)』の開発に携わる。

  • 日本工営株式会社 道路事業部 道路事業マネジメント室

    平田 大希(ひらた ひろき)

    2016年入社。主に道路インフラを対象にしたアセットマネジメントの案件に従事。2018年から浦と同じくインフラマネジメントセンター(現在の事業創生センター)にて自治体の維持管理支援に関する事業開発に着手。事業モデルの開発と充実の中で、維持管理支援システム『Manesus(マネサス)』の開発に携わり、マネジメントプロセスの変革を推進する。

  • 日本工営株式会社 道路事業部 道路事業マネジメント室

    後藤 裕子(ごとう ひろこ)

    2008年、日本工営中央研究所の岩盤解析グループに配属され、その後、流域砂防グループにてシミュレーション業務に従事。2018年より先端研究センターにてドローンやAIなど新技術の開発・検討に従事。2022年より道路事業マネジメント室にて自治体の道路維持管理支援に関する事業に参画。主にデータ分析やGISによるデータ利活用の検討により、事業モデルの充実と拡張に携わる。

  • 部署名および役職・インタビュー内容は取材当時のものです

STORY

老朽化が進む公共インフラ施設
修繕対応に追われる自治体・維持補修業者の負担を減らしたい

―インフラ維持管理支援システム『Manesus(マネサス)』の開発に至った経緯を聞かせてください。

少子高齢化、インフラの老朽化など今後の社会情勢の変化を見据えて日本工営では、社内顧問の金指による「PPP(注2)の日常管理の事業者サイドのマネジメントに参加」の構想の下、当社らしい事業モデルであるリアルタイムマネジメントの原型の開発・試行が進められていました。そして2018年4月にインフラマネジメントセンターという部署が設立され、私と平田が参加し、その後、後藤の参加も得ながら事業モデルの内容の充実・拡張を進め、事業モデルの中心にリアルタイムマネジメントを置きました。住民・管理者・維持補修業者の三方にメリットが生じることを開発方針とし、現状のプロセスを見える化し、デジタル技術を活用した「マネジメントと支援システムが一体化したサービス」の提供を具体化させていきました。ちょうど世間にクラウドサービスが普及し、チャットボットやAIなどの技術が広がってきた段階で、このような技術を取込み、従来の日常道路維持管理のプロセスを置き換え変革することで管理者や維持補修業者の生産性向上を図ることとしました。

  • 注2「PPP」とは、Public Private Partnership(官民連携)の略
平田

公共インフラ施設が老朽化していくにも関わらず、修繕対応を担う維持補修業者の人手は不足し、自治体の維持補修予算も減っていく一方です。これは全国の自治体に共通する課題と言えるでしょう。

この課題に対して、私たちは「道路の日常管理」の点でお役に立ちたいと考えました。住民からの修繕要望を受け付けてから対応措置を完了するまで、自治体と維持補修業者の間で数多くの連絡・調整、書類作成、手続きが発生します。年間に何千件も発生する一連の業務は、主に電話やFAX、メールでなされていて、煩雑を極めていました。そこで、クラウド上で連絡や情報共有、手続きができれば、自治体や維持補修業者の負担軽減につながると考えたのです。

―そこからどのようにして本システムを設計していったのでしょうか。

平田

まずは、要望を受け付けてから措置が完了するまでの間にどのような業務が発生するのか、自治体と維持補修業者からお話を伺いました。そして、お伺いした内容を基にプロセスを整理し、どの業務を効率化・高度化できるかを検討したうえで、全体プロセスが最適化するようにシステムを設計していきました。これを基本形として事例を重ねて、その内容を充実させていきました。

設計の際に私たちが提唱したのが「リアルタイムマネジメント」という概念です。例えば、住民要望を受付段階から管理者と維持補修業者が情報共有することで、現地確認等の次の行動に速やかに移行することができ、措置対応についても、リアルタイムでの情報共有により、対応要否の判断や対応の結果確認を迅速に実施することが可能となります。管理者と維持補修業者の情報共有をリアルタイムで実現するために、クラウドを活用した本システムを開発しました。システム活用の結果、維持管理のマネジメントが効率化・高度化し、住民サービスの向上へと繋がります。このように「マネジメントと支援システムが一体化したサービス」が私たちの『Manesus(マネサス)』なのです。

システムの基本形に自治体の初期の要望をいれて構築した段階で、自治体と維持補修業者に試行していただきました。アジャイル型(注3)の開発方針として取り組み、試行の中で、実際の業務に合ったシステムになっているか、画面構成や操作方法などを確認していただき、機能追加や操作性の改善をしてきました。この結果がより良い操作性につながっています。全国には1788の自治体があり、インフラの維持管理に対する考え方は自治体によって異なりますが、実績を重ねることで、基本形の充実や類型化等により効率的な開発を進めています。

  • 注3「アジャイル型」とは、システムの開発手法のひとつで小さな開発サイクルを何度も繰り返していく手法のこと。これによりリスクを最小化しながら柔軟で効率的な開発が行える。

約3割の作業時間短縮を実現
自治体や事業環境に応じたサービスを提供していく

―本システムは2022年7月現在、東京都府中市、東京都東村山市、埼玉県志木市など複数の自治体で導入されています。利用者の反応はいかがでしたか?

システムを使用いただいた方からは、「システム上で作業が完結するので楽になった」「もうこのシステムなしではやっていけない」など嬉しいお言葉をいただきました。電話やFAX、メールでのやりとりが激減したのはもちろんのこと、報告書の作成や要望件数の集計作業を自動でできるようになるなど、作業負担が軽減した点を評価していただいたようです。利用者に対するアンケートからは、要望受付1件あたり約3割の作業時間を短縮できたことがわかりました。

これからは契約方式の変更、データ活用やデジタル技術の活用等の進展に、迅速に対応できる業務全体のマネジメントがますます重要です。本システムはこのような変化にも柔軟に、かつ容易に対応できる開発方式をとっており、住民・管理者・維持補修業者の3者がWin-Win-Winとなるようにしています。

―近年、インフラの維持管理において、民間企業に委託しそのノウハウを活用する「包括的民間委託」を導入する自治体が増えつつあります。

平田

本システムは、包括的民間委託などの官民連携をはじめとする事業環境の変化にも柔軟に対応できます。例えば、これまで自治体が行ってきた判断や意思決定を民間企業がいきなり同じ水準で行うのは難しいでしょう。そこで本システムを活用すれば、どのような基準で判断や意思決定がなされてきたかを履歴から確認できます。一方で自治体もシステムから作業状況をモニタリングできるので、安心して民間企業に委託することができます。

実際、2021年4月から東京都府中市でスタートした「府中市道路等包括管理事業」では、本システムをJV構成員に導入して貰いました。さらに、弊社も事業者の一員として東地区の道路管理に参画しています。

舗装工事業者、造園業者、清掃業者など様々な事業者の皆様と共に業務改善方法を議論する中で、私たちからも様々な提案をしました。例えば本システムでは、維持補修業者が作業を行うほどデータが溜まっていきます。蓄積したデータを分析すれば、除草時期や巡回頻度を予測できるかもしれません。このように、本システムを活用してマネジメントを次のステージへと高度化していくことに意義を感じています。

データ活用によるインフラ維持管理の効率化・高度化を目指す

―本システムを活用して、今後はどのような取り組みをしていきたいですか。

後藤

データ活用をさらに進めていきたいです。これまで本システムでは、様々なデータを蓄積してきました。その一つが「作業時間」。蓄積した作業時間のデータを分析することで、2つのことが分かります。一つは要望を受け付けてから対応するまでにどれくらい時間がかかったのか、対応が遅れた場合は何が原因だったのかがわかるようになります。今後、同様の要望を受け付けたとき、対応時間の目安にすることができるでしょう。もう一つは市民への安全や利便性等のサービスです。サービス水準の見える化が可能となります。

データ活用に本格的に取り組み始めたのは、2021年7月からです。蓄積データが十分ではない中で、一定の成果が見え始めたテーマもありますが、道半ばのため、まだ明確な結果を出せていないのがもどかしいですね。データを蓄積するのにもう少し時間がかかりますが、データに基づいた新たな維持管理のしくみができると思いますので、そうなれば、より多くの方のお役に立てるはずです。そう信じて、取り組んでいきます。

データを最大限活用するには、様々なデータを連係させることも必須です。本システムのデータに加えて、パトロール車のドライブレコーダーの映像など自治体や他社が集めるデータを集約して分析すれば、業務プロセスを次のステージへとさらに変革できるはず。それが結果として、住民に安心安全な道路を素早く提供することにつながると考えています。

平田

日本工営は今年で設立76年目を迎えましたが、これまで建設コンサルタントとしてダムや河川、道路など公共インフラ整備の領域で幅広く事業を展開してきました。この知見を活かし、維持補修の課題を踏まえたうえでサービスを提供することを心がけています。なかでも重視しているのは、一連の業務プロセスを踏まえたうえでの「全体最適」という視点。本システムでは「要望受付」「監視」などの部分的な業務にとどまらず、最初から最後まで業務を一貫して管理するサービスを提供することにこだわってきました。だからこそ、要望受付から措置対応までの一連のプロセスにおいて「約3割の作業時間短縮」という効果が得られたのでしょう。

システム開発会社ではない、日本工営だからこそ提供できるサービスがあります。私たちの役割や強みを意識した上で、サービスを更に拡充していきます。

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