ブルーカーボン生態系「藻場」の創生を支援するシステム開発
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生物多様性保全や脱炭素推進に重要な「藻場」
多様な生物が生息することから「海のゆりかご」とも称される藻場。藻場は、海草や海藻を食べる生き物の餌場かつ魚介類の産卵や幼稚魚の保育の場であることに加え、近年では二酸化炭素(CO2)を吸収するブルーカーボン生態系としても注目されています。しかし、地球温暖化による海水温の上昇や食害生物の増加などにより、海藻が激減する「磯焼け」と呼ばれる現象が全国各地で進行し、深刻な問題となっています。生物多様性の保全や脱炭素推進といった課題に向けて、藻場の再生・創生が注目されています。
藻場生育ポテンシャルを可視化するシステムを開発
これまで、水中に生育する藻場は環境情報取得の難易度が高く、分布や生育を規定する環境要因などの情報の横断的な利用が不十分という課題がありました。
この課題を解決すべく、日本工営中央研究所と地球環境事業部からなる研究チームでは、環境情報を踏まえた現在・将来の藻場生育ポテンシャルを可視化するシステム「MobaDAS」を開発しました。MobaDASは既存の科学的知見、多様な波長・特徴を持つ衛星画像の解析、水理水質モデルによる水中環境予測など、水環境に関する多面的な技術分野を融合し、場所ごとの藻場生育適性度を統合評価します。
藻場創生や維持管理を行う民間企業・自治体・漁業協同組合・NGOなどに活用されることを想定し、藻場の生育に適した水域の判別、藻場のリアルタイム情報が一元的に確認できるシステムとしました。今後、MobaDAS研究チームでは、評価可能な藻場の種類や対象水域を拡大するなどさらに研究を進め、実証実験等を経て2026年中のサービス開始を目指します。


NEDO主催の衛星データ活用開発コンテストで1位獲得
MobaDASは2025年1月、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)主催の衛星データ活用開発コンテスト「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」において第1位(「テーマ1:カーボンクレジット基盤構築(グリーン・ブルーカーボン等)」)を獲得しました。本コンテストにおいて、藻場の生育可能性評価に対し、シミュレーションモデルによる精度向上や準リアルタイム情報を用いたサービス提供など、衛星データを積極的に活用する点が評価されました。

日本工営は今後も、カーボンニュートラル実現に向け、衛星データや環境情報を活用した様々な社会課題の解決に資するソリューション開発を行い、グリーン分野に係る課題に取り組んでまいります。
VOICE
藻場はブルーカーボンによる脱炭素化社会への貢献と沿岸生態系の保全という二つの重要な機能を持っていますが、磯焼けの深刻化などへの対策を講じることが社会全体の喫緊の課題になっています。一方で藻場を創成することに対する技術的・社会的な課題は山積しており、一筋縄ではいきません。
今回のプロジェクトでは、中央研究所、環境部、環境技術部のメンバーが各人の得意分野を活かし、このような状況に少しでも役立つ情報を提供するための仕組みとして開発しました。今後はこの仕組みを実際の藻場創成にどのように活用していくのかを検討し、藻場創成という社会的課題に貢献できるよう継続していきたいと考えています。
