西九州新幹線開業を契機に、メタバース・VRを嬉野市の地方創生に活かす

CHALLENGE

WebサイトやSNSなど、従来の方法だけでは旅行者へのアプローチが難しい時代に

2026年には日本国内だけでも1兆円規模の市場になると言われているメタバース。最近はニュースで取り上げられる機会も増え、この新技術がどのような革新をもたらすのか、注目が集まっています。現在のところ、「日常とは異なるもうひとつの世界で余暇を過ごす」という概念が先行していますが、日本工営では河川の改修工事など業務用としての技術開発を推進。そして今回のメタバース空間を活用した事例は、観光における情報発信の分野です。

嬉野市の観光コンテンツは、「日本三大美肌の湯」とされる嬉野温泉、うれしの茶、陶芸の肥前吉田焼、忍者村をはじめとしたアクティビティ施設、山海の食など、様々な魅力を持つものです。これまで嬉野市は、大型バスや自家用車で訪れる観光客をもてなすことで、街を成長させてきました。しかし、団体旅行から個人旅行に趣向が変化している時代の流れや、コロナ禍におけるインバウンド客の減少、また、人々の意識の変化など、様々な要因から観光産業の再強化が必要不可欠になっていました。観光ポータルサイトやSNS、様々なメディア展開など、情報発信は行ってきましたが、その効果が把握しきれてなかった、配信対象の戦略的な展開が十分図れているか、という点については課題が残っていました。

2022年9月23日、九州新幹線西九州ルート(福岡市・長崎市間)のうち、長崎と佐賀の武雄温泉との間を結ぶ西九州新幹線が開業しました。その中でも、嬉野温泉駅は他とは異なる特徴があります。日本各地の多くの場所ではかつての街道沿いに鉄道の線路が敷設されましたが、長崎街道沿いの嬉野市内には鉄道路線が敷設されていませんでした。西九州新幹線の嬉野温泉駅は市内で初めての鉄道駅であり、その観光客誘致への期待が高まっているのです。

しかしこの新幹線開業で誕生する駅と市街地中心部は1km以上離れているため、それらを結ぶ移動手段が新たな課題として浮上しています。

そしてもう一つ、これまで嬉野市の観光は、旅マエ、旅ナカ、旅アトのうち、旅ナカのウエイトが非常に大きいことが特徴でした。観光客をその旅程の中で精一杯おもてなしすることでリピーターになってもらうことは、非常に大切なことです。しかし、同じく大切である旅マエと旅アトのフォローがなされていないことも見直すべき課題でした。

SOLUTION

ビッグデータの分析とメタバースを掛け合わせて、旅マエと旅アトもフォローできる観光コンテンツを

嬉野市は内閣府の「未来技術地域実装事業」を活用し、「嬉野市の魅力を全国・全世界に発信する環境づくり」「来訪者の移動を支えるモビリティサービス」「5Gを活用した各種データの収集・提供」の3視点から、先進技術を活用した新たな観光まちづくりを目指したプロジェクトを始めました。日本工営はこのプロジェクトに参画し、大日本印刷株式会社、株式会社ケー・シー・エス、株式会社福山コンサルタントと共に、嬉野市の観光課題の解決に取り組んでいます。

これらの諸課題を解決するひとつの手法として、従来型のWebサイトやSNS発信に加えて、『デジタルモール嬉野』というメタバース空間と、『バーチャル嬉野・嬉野散歩』という360度カメラで撮影した嬉野の街並みや店内をVRで見られるコンテンツを作成しました。更にこれら各々のコンテンツのログを把握・分析可能なデータプラットフォームを構築し、嬉野観光を後押しする「武器」を創る取り組みを進め、2022年9月23日の西九州新幹線の開業に合わせてそれらをカットオーバーしました。

嬉野のバーチャル観光空間
うれしの茶畑の360度体験 デジタルモール嬉野内の観光交流センターさらに360度体験可能 バーチャル嬉野・嬉野散歩

2022年10月現在、1年目の成果として、嬉野温泉駅と主要な観光地のメタバース空間の構築と360度カメラによるバーチャル散歩が完成しました。データを基にした効果測定を行うとともに市民の声を聞き、優先順位が高いものからコンテンツの補強を年度ごとに進めています。

現在はメタバース空間の基本的なプラットフォームはまだ立ち上げ段階です。今後はECサイト機能を持たせることで旅アトのフォローも強力に行い、旅マエ、旅ナカ、旅アトのすべてで「旅」の付加価値を利用者に享受してもらえる仕組みを作っていきます。メタバース空間の大きな特徴は、普段は会わない人と、特別な環境で出会えることです。それはまさしく「旅」そのものです。そんな環境が、日本工営の設計力と大日本印刷株式会社の技術力で実現しました。同時にログインしている人たちへ手を振ったり、拍手したり、チャットでコミュニケーションすることもできます。現段階では、同時に200人がログインできる体制を整えています。加えて、コインを集めてお土産をもらったり、限定イベントに参加できたりする機能を整備しました。嬉野市の皆様との協議の上で、これからオンラインイベントやライブコマースなどに発展していく予定です。

360度カメラによるVRでは、360度写真を通じて街並み・宿泊施設・飲食店や窯元の中の雰囲気が感じられます。これは様々な店舗に撮影協力をしていただくことで実現できました。今後も常に更新を続けていきます。

肥前吉田焼の窯元で取材

POINT

豊かな体験とビッグデータ活用のノウハウを活かして、別の自治体にも横展開していく

西九州新幹線が開業事業して最も早く成果が出始めたのは、「5Gを活用した各種データの収集・提供」です。情報発信のデータや観光データをデータプラットフォームに蓄積し、解析が始まりました。2022年秋から冬にかけて、その分析結果の第一弾を嬉野市に報告します。ビッグデータの解析という裏打ちがなされた情報を基に行う、初めての施策の検討ですから、白熱した議論が予想されています。

「嬉野市の魅力を全国・全世界に発信する環境づくり」「来訪者の移動を支えるモビリティサービス」「5Gを活用した各種データの収集・提供」の三本柱から得た経験は、今後、同じく観光による地方創生を目指す自治体に横展開をしていく予定です。しかし、私たちはこの事業で得た経験をそのまま横スライドさせるわけではありません。総合コンサルタントとして、各自治体のニーズや課題をしっかりと調査・ヒアリングし、オーダーメイドの課題解決方法を提案します。現在は、そのための基準となる経験を積み上げている段階です。現実世界と仮想世界を融合した「地域共創型XR(eXtended Reality)まちづくり」の事例が増えていくことは、既存の手法で頭打ちになっていた観光産業の大きな希望になることでしょう。日本工営では、時代に求められるメタバースの運用推進や、動画広告を活用したデジタルプロモーション、バーチャル接客サービスによる「オンライン接客・観光案内」などに発展させ、更なる課題解決に取り組んでいきます。

これまでのまちづくりと、これからのまちづくり。変わらないことは「人のつながりと気持ち」です。たとえ華々しい新技術を使おうとも、それはひとつの手段でしかありません。大切なことは、その街で事業を営む人や暮らす人が、以前よりもいきいきとした人生を送ること、そして、より多くの人間関係が育まれることです。今回の事業でも、市民の方々と何度も議論を交わしたことで関係が密になっていきました。当初は突拍子もないことを始めたという声もありましたが、どんどん新しい嬉野市の観光をみんなで作り上げていこうという機運が高まっています。地域を良くするために「関わろう」という思いが積み重なることで、嬉野市のまちづくりは持続可能な未来を描き始めています。

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