地すべりや土砂災害の防災を自動設計で高度化・省力化
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自動設計の導入によりミスやコストの削減と効果的なマネジメントを実現
2023年度に国土交通省においてはBIM/CIMが原則適用になるなど、土木・建設業界において大きな変革期を迎えています。通常、技術の発展は、各社が独自の技術を市場でぶつけ合い、勝者がシェアを手にするもの。しかし、斜面防災業務の3次元化というテーマにおいては、人命を救うという大きな目標を目指し、官学民が一体となってオールジャパン体制で未来へ歩んでいます。
2次元から3次元のモデル設計が急速に進んだ大きな理由に、高度化も省力化も一気に実現できる作業環境の獲得が挙げられます。計画、調査、設計、施工、維持管理などのプロセスを問わず、すべての関係者間の情報共有が容易になり、効率的で質が高い生産と管理のトータルシステムの構築が可能になるからです。
ただ、この画期的なBIM/CIMのモデル作成には、大きく4つの課題が立ちはだかっています。
- 1.モデル作成の限界
手作業で3次元の設計を行うと、予算と時間の概念においてどうしても限界点が存在してしまう - 2.スキルやハードのマネジメント
専門性が高い人に仕事が集約されやすくなる。結果、設計が属人化されてしまう
これまでBIM/CIMの導入が進まなかった要因のひとつ - 3.ヒューマンエラー
複雑な3次元設計には、どうしてもヒューマンエラーが発生しかねない
照査して修正することは可能だが、作業効率が著しく悪化する - 4.膨大な作業コスト
上記1~3のすべてにおいて、膨大な作業コストが発生する
日本工営ではBIM/CIMの導入と活用がさらに促進するために、これらの課題を解決する自動設計システムを開発しています。
SOLUTION
3Dモデリングから概算工事費の算出までを一括で行う自動設計プログラム
BIM/CIMと自動設計の連動が本格化すれば、ミスや手戻りの大幅な減少、単純作業の軽減、工程の短縮、施工現場の安全性向上、関係者間の意思疎通の向上、合意形成の高度化と迅速化など、飛躍的な効果が生まれます。その未来を見据え、日本工営では地すべり・斜面対策工の自動設計システムの開発に取り組んできました。これまでは技術者が試行・検討を繰り返しながら設計を行ってきた領域までも自動化にも成功しています。入力値の整理ができていれば、各種構造物を自動で設計・モデル化し、その後の作業も一括で自動処理できるプログラムです。
プログラムの処理は、ステップ1から3の工程に分かれています。ステップ1は、パラメトリックモデルの作成です。設計図面から情報を読み込んでプログラムを実行するだけで、モデルを完成させることができます。ステップ2は設計条件や設計思想をプログラム化したもの。各工事に定められている設計基準を網羅しているため、基準から外れた構造物がモデル化されると自動照査してエラー色が出力されるようにしました。ステップ3は概算工事費用の算出などを行います。諸条件を満たしたモデルが完成している段階なので、任意の数字を拾い出すことが可能になり、設計後の作業を自動化しています。
これまで、これらの作業に必要だった時間は1時間以上。しかし、自動設計システムを使えば、技術者ではないオペレーターでも15分程度で同一の作業を完了できます。ミス激減に加え、時間とコストの大幅な圧縮を実現しました。また、数値入力によるトライアンドエラーが何度でもできるため、誰もがテストを繰り返して完成イメージを固められることも大きな特徴のひとつ。設計だけではなく照査でも使えるため、斜面防災のBIM/CIM業務における標準ソフトとしての稼働も視界に入っています。
POINT
「地域住民の命のために」という根本的な目標を達成することが使命
地すべり対策や斜面防災の技術は、そこに住む人たちの命を守るために発展を遂げてきました。令和5年度における斜面対策工のBIM/CIM標準化は災害防除工事の領域が基本とされており、地すべり災害における工事にはまだ適応していませんが、私たちは特に土砂災害については使われるようになっていくと推測しています。すでに、UAV(ドローン)による点群データの取得は、地すべり災害になくてはならないものになっているからです。
地すべりや土砂災害が起こった時に必要になるものは、自治体や地権者との連携および各種申請、発災後調査、概算工費を見積もりした上での応急対策など、多岐にわたります。これまで、2次元データだけでこれらの業務を進めるためには、膨大な作業量が必要でした。特に応急対策工事のイメージを関係者間で共有することは非常に難しく、何度もすり合わせが必要でした。もし、ここに3次元データが活用されると、素早く情報共有でき、調査の初動も格段に早めることができ、全体での工期短縮や復旧復興の迅速化に貢献できます。
また、施設設計や機構解析の分野では、豊富な経験を持つ専門技術者がこれまでの経験を踏まえて工法選定や詳細設計を実施することもありました。経験が必要な上に属人性が高く、個人の想像の域を出ない作業とも言えます。この工程に3 次元モデルの自動設計を導入することで、誰もがトライアンドエラーをしながら条件を振り返り、より精度が高い仕様を決められるようになります。
まだ、3次元での自動設計は始まったばかりの技術です。そのため、まだまだ伸び代がたくさん残されている領域とも言えるでしょう。そして、高度化・効率化・省力化が進むほど、人類の目標ともいえる「快適な生活」に近付いていけると考えてます。日本工営では、ひとつひとつの技術の積み重ねから未来を切り拓き、今後も人と社会に貢献していきます。