宇宙技術を活用した防災への取り組み 衛星リモートセンシング技術の社会実装へ向けて
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CHALLENGE
「人の目で見る」ことの限界
近年日本では、高度成長期に建設された膨大なインフラ施設の老朽化や、激甚化する自然災害に対し、より効率的かつ一括的なインフラ施設管理、迅速な被災状況把握と復旧対応が求められています。しかしながら、技術者不足、人手不足が叫ばれる昨今、すべてを人の目で点検・管理するのは、安全性やコスト面で課題があります。
例えば、道路や鉄道、空港などの大規模インフラ施設の管理は点検に要する労力が大きく、山間部にある送電鉄塔では点検作業の効率性が課題となります。法令及び技術基準に準じた、国内インフラ施設の点検・管理費は推計で年間約6,250億円(注1)にものぼるとされ、コストの課題も顕在化しています。また巨大台風や豪雨災害などの災害時は、広域かつ同時多発的に氾濫が発生し、ヘリコプターや現地からの情報だけでは被害状況の把握が非常に困難です。
少子高齢化や技術者の減少に伴い、インフラ施設の維持管理や広域災害対応における人的負担は今後さらに増加が予想されます。こうした状況に対し、広域を一括して観測できる衛星リモートセンシング技術を活用した、インフラ施設管理や被災状況把握の効率化が期待されています。
- 注1出典:2020年版 次世代インフラ維持管理技術・システム関連市場の現状と将来展望 株式会社富士経済
SOLUTION
衛星リモートセンシング技術の活用―衛星防災情報サービス
インフラ施設の微細な変状モニタリングには、航空写真のようにカラー画像を取得できる光学衛星とは別に、SAR衛星と呼ばれるレーダー衛星で得られるデータを用います。SAR衛星から地表に向けて定期的に照射されるレーダー波を解析することにより、観測対象の変動量を得ることが可能で、これをSAR干渉解析と呼びます。また、干渉解析を複数回行う時系列干渉解析は、長期間のインフラ施設の変位モニタリングに適しています。観測対象となるインフラ施設は、空港、港湾、ダム、堤防、鉄塔、道路など多岐にわたり、大規模施設や人が立ち入りにくい施設に適用すると効果的です。また構造物に限らず、山の斜面を継続的にモニタリングすることで変動箇所を検出し、がけ崩れなどの斜面災害の事前防止につなげることも可能となります。
2021年4月に当社がスカパーJSAT・ゼンリンと共同リリースした衛星防災情報サービス(SADIS)では、広域な衛星観測によって経年変化が生じている箇所を特定し、日本工営の保有する土木・防災分野におけるノウハウ(注2)と組み合わせることで、インフラ施設や斜面の危険度を評価するサービスを展開しています。
同サービスは災害時における被災情報の提供も行っており、複数の衛星によって取得したデータを基に、広域で発生する浸水域や土砂崩壊域を検出し、迅速な被害状況の把握に貢献します。
- 注2「日本工営が保有する土木・防災分野におけるノウハウ」の一部はhttps://www.n-koei.co.jp/rd/technology/でご確認いただけます。
RESULT
インフラモニタリング
羽田空港国際線エプロン(航空機を駐機する場所)をフィールドとし、既存の測量成果とSAR時系列干渉解析結果との比較検証を行いました。
左図が測量結果から算出した2年間の変動量、右図がSAR時系列干渉解析によって算出した2年間の変動量を示す図です。測量結果とSAR解析結果のいずれにおいても、エプロン左上部の大きな沈下傾向を捉えており、全体の変動傾向も概ね一致しました。エプロン内に散在するSARのデータを測量点の位置に合わせて平均化して誤差を比較したところ、絶対誤差平均は0.42cm、RMSE(注3)で0.61cmであり、測量結果との一致性は高いといえます。この検証では無償で公開されている「Sentinel-1」のデータを用いましたが、さらに解像度の高い商用のSAR衛星を用いて検証を継続しており、本技術の社会実装に向けた取り組みを進めています。
- 注3二乗平均平方根誤差:値が小さいほど測量値との変動傾向が一致している。平均誤差と比較し、誤差が大きいデータの影響を受けやすい指標。
災害時状況把握
令和元年東日本台風時の那珂川を撮影した衛星画像を用いて浸水域を自動解析し、上の結果を得ました。赤く囲われた範囲が解析によって抽出された浸水域で、氾濫流によって茶色く濁った水域を正確に検出していることが分かります。さらに、抽出された結果をゼンリンの詳細な地図と重ね合わせることで、浸水した建物数などの情報を提供します。
今後は衛星画像と現地のSNS情報等を組み合わせ、より迅速かつ正確な氾濫推定技術の構築を目指します。
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